不思議な出来事。

都内某所の牛丼チェーン「な●卯」での不思議な出来事。

ビーフカレー
おんたま
キャベツサラダ
の3点を注文。栄養バランスもバッチリ。
味についてはとやかく言うまい。

「ごっそさま」

食後、レジで伝票を出す。
この時点ではほぼ全く店員の方に注意を払っていない。

女店員「570円になります」

はいはい、えーと、500円玉も50円玉もないからちょうどは無理だな、お、千円札発見。10円玉も必要充分だ、と僕は財布の中を探しながら『東京大学物語』並みの驚異的なスピードで暗算する。てことは…

1120円−570円
＝550円
（ここまで約1．2秒）

おお！これなら、1000円札はともかく、硬貨3枚分財布をスリム化できる。それと引き換えに増えるのは、硬貨2枚分（重い500円玉が入っているとはいえ）だけ（※1）。錬金術の逆を地でいく財布減量マジック。完璧だ。フフフ。まぁ、あほな店員が「多すぎますよ」、とか思わなきゃいいが…。

とここまで約0．9秒で考え、1120円をジャラッとレジカウンターに広げる。

瞬間、眉間に「計算中」という苦悶の皺を浮かべる女店員。

「あ、やべ、この店員頭ん中真っ白かも。まったくわからん奴」、と野武士が侮蔑の薄ら笑いを浮かべそうになるかならないか、というまさにそのとき（お金出してからここまで約0．3秒）、女店員の眉間から「計算終了！」の晴れやかな虹が覗く。

何ィ！？　

早い！

ニュータイプか！？

言い忘れたが、この女店員、レジスターを叩いてはいない。
たしかに「暗算」していた。

そして、心なしか「ハハーン、なるほどね」的な「笑み」のようなものすら浮かべる女店員。

「ここでレジを叩いたら私の負けね。そこら辺の小娘と一緒にしないで頂戴」、とでも言うように（？）、慣れた手つきで釣りを2枚、ジャラッッと取り出す。

金を払ってからまだ1秒経つか経たないかの頃である。

「はい、これが野武士くんが欲しかったキリのいいお釣り（微笑）。1120円って一瞬、何かと思ってビックリしちゃった」

いつ僕のHNを知ったのか、そう語りかけるように、僕の方へつり銭の入った手を伸ばす。

※※※※※　※※※※※　※※※※※　※※※※※　※※※※※
ここまでだったら、何事もなかった。
ただ、その「苦悶の皺」から「晴れやかな虹」へと表情が変わった瞬間、本当にささやかだけど「わかりあえた」感があって、たまにある「店員さんとちょっぴりコミュニケーションしちゃって何となくいい気分」というだけの経験で終わっていたに違いない。
しかし、、、
※※※※※　※※※※※　※※※※※　※※※※※　※※※※※

話は戻って、女店員がつり銭を渡そうと、僕の方へ手を伸ばしてきたそのとき、、、

僕は初めて相手の顔をチラと見た。
今まで「眉間の皺」とか言ったのも、実際、顔をちゃんと見たのではなく、その場の空気を感じていただけで、顔に焦点を当てたのはこのときが初めてだった。

か、可愛い。。。

この、これといってインパクトのない、和風で普通っぽい顔からにじみ出る人懐っこそうな雰囲気。好奇心旺盛そうな瞳。このタイプ、全然嫌いではない！！（0．02秒）

などと思ったのも束の間。

気がつくと、伸ばした彼女の左手が僕の右手にそっと添えられていた。

あ、

と思うのとほとんど同時に、彼女の右手がさらに僕の手にそっと乗せられ、ほんの一瞬、たぶん、0．数秒だと思うが、彼女の両手が僕の右手のひらを柔らかく包みこむ。

永遠のように長く感じた、甘く暖かく柔らかい瞬間。

「・・・！？」

長い。

握られている？？

一体何なんだ？？？

そんな、ふいに訪れた「接触」に全身の血液が逆流しようかというころ、彼女の手は、つり銭とぬくもりだけを残し、レジカウンターの向こうに遠ざかっていった。

「ごっそさま」

と、もう一度言って店を出た。
女店員の顔は、たぶん、少しだけ微笑んでいた、と思う。

ここまで、伝票を出してから10秒あまり。
8割方妄想とはいえ、残りの2割は大真面目。
食欲も、酒を飲む気もなく、ただ適当に入った店で過ごした濃密な10秒間だった。

女の人との一瞬だけど濃密な「密着」に気が動転していたのか、その直後のことはほとんど覚えていない。

（※1）
貨幣枚数の増減のおさらい
支払い（減）：千円札1枚・百円玉1枚・十円玉2枚
つり銭（増）：五百円玉、五十円玉各1枚

＞ゲルタ様
もったいないお言葉の数々、痛み入ります。
ゲルタさんみたいに、華があってエスプリの効いた文章を書く方に、「知的で洗練」なんて言われると感激です。

裸エプロンと聞いて、ギルガメッシュナイトを思い出しました。